循環器内科の診療
病気の話の前に少し心臓や血管(併せて循環器といいます)の働きについて説明したいと思います。人間は酸素が無いと生きていけません。酸素は肺から取りこまれ血液に溶けた後、全身の臓器や組織に供給されますが、血液は水道管の中の水と同じで循環させるための力(ポンプ)が必要となります。そのポンプの役割をしているのが心臓です。
循環器内科では、ポンプである心臓の病気(狭心症、心筋梗塞、心不全、不整脈など)の治療や、水道管である血管におこる詰まり(動脈硬化)や動脈瘤(りゅう)などの診療を行います。血管を詰まらせないためにも生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病など)の管理が重要となってきますので健康診断などを定期的に受けることが重要で当院でも行っております。
狭心症
動脈硬化などが原因で冠動脈(心臓に栄養や酸素を供給する血管で心臓の周りを走行しています)が狭くなり血流が悪くなると、心臓が酸素不足となり、胸の痛み、圧迫感、絞扼(こうやく)感(しめつけられる感じ)などの症状が現れます。また、歯の痛みや背中の痛みとして感じることもあり歯科や整形外科を受診される方もおられます。このように狭心症の発作は様々な症状を呈しますので気になる症状があれば受診をお勧めします。
最初のうちは、心臓がたくさんの酸素を必要とする運動時だけに症状が出ることが多く(労作性狭心症)、休むと治まることが多いのですが、病気が進行すると安静時や排便時などの息んだ時など軽い労作でも症状が現れるようになり症状の持続時間も長くなります。
また、狭心症の中には、冠動脈に狭いところがなくても、冠動脈自体が痙攣・収縮(攣縮=れんしゅく)し血流が悪くなり、狭心症のような症状が出る場合があります。このような状態を「冠攣縮性狭心症」といいます。これは動脈硬化による狭心症とは違い安静時に起こることが多く、特に朝方や就寝時の発作が多いことが特徴で「朝方胸が痛くて目が覚めた」という患者さんが多くいらっしゃいます。
動脈硬化による狭心症と冠攣縮による狭心症では治療方針が異なります。動脈硬化により血管が細くなった場合はカテーテル治療により血管を拡げたり(ステント治療)、狭窄部位の先にバイパスを掛ける冠動脈バイパス術を行います。冠攣縮による狭心症には血管の痙攣を予防する内服治療になります。胸部症状を自覚するときには、早めに受診し相談してください。
心筋梗塞
心筋梗塞は狭心症と同様に冠動脈の動脈硬化が原因で起こりますが、狭心症との明らかな違いは胸部症状の持続時間が長く(30分以上持続することが多い)、心臓の筋肉が壊死してしまうことです。狭心症は心臓への血流が労作時などに一時的に不足して発作が起きますが、心筋梗塞は血栓(血液の小さな塊り)などで冠動脈の血流が長時間遮断され心筋が不可逆的な壊死に至ります。壊死に至った心筋を元の状態に戻すことは現代医学では難しいのが現状です。壊死した心筋が広範に及ぶとポンプ機能が低下し心不全になったり不整脈が出現したりと慢性期の合併症にも注意が必要です。
心筋梗塞の治療は急性期と慢性期に分けて考える必要があります。急性期治療は発症から出来る限り短時間で遮断された血流を再開させることが重要です。持続時間が長い胸部症状は躊躇なく救急車を呼ぶことが大事であり、早期の診断治療が予後にも影響を及ぼします。急性期治療を行い退院した後も社会復帰のための心臓リハビリテーション、心筋梗塞の再発予防や心不全の管理が重要となってきます。
心臓弁膜症
心臓には4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)があり、各部屋の出口には弁という扉があります。この扉である弁の開きが悪くなることを狭窄症、閉まりが悪くなることを閉鎖不全症もしくは逆流症といいます。心臓弁膜症とは狭窄症や閉鎖不全症の一方もしくは両方がある状態をいいます。自覚症状が無くても健診等で心臓に雑音があると指摘されたり、労作時の息切れ、かぜ様症状、下肢のむくみ、全身倦怠感などの症状で発見されることもあります。時に失神発作なども出現します。診断は心臓エコー検査で行い当院でも可能な検査です。
治療は、軽症~中等症までは、薬物治療(利尿剤、強心剤)が中心となります。しかし、病状が進んでくると、徐々に心臓の筋肉(心不全や不整脈)や腎臓、肝臓の機能など全身の臓器を障害し、薬ではコントロールできなくなり、手術が必要となります。手術は自分の弁を修理する弁形成術や人工弁に取り替える弁置換術があります。最近ではカテーテルで治療が出来る弁膜症もあり治療の低侵襲化が進んでいます。重要なことは適切な治療時期を逃さないことです。治療が遅れると心臓の働きが落ちてしまうことがあり心不全を繰り返すことがありますので、気になる症状があるかたはお気軽にご相談ください。
心筋症
心筋症とは先天的もしくは後天的に心臓の筋肉が何らかの原因で障害される病気です。学校健診などの心電図異常で発見されることもあれば、息切れなどの心不全症状が出現しわかることもあります。早めに発見治療介入することにより心不全発症を抑えることが出来ますし、心筋症の種類によっては根本的な治療も可能な場合があります。
心不全
心不全とは冠動脈疾患や心臓弁膜症・心筋症など様々な病態が原因でポンプ機能が低下し、足のむくみや動いた後の息切れ、呼吸苦、手先の冷感など様々な症状が出現した状態をいいます。原因を診断し適切に治療介入することが重要です。また、診断された後も患者さんに合った治療が必要であり、上手に心不全と付き合うことが重要でそのお手伝いが出来ればと思います。心不全はどうしても入退院を繰り返すことがあり、夜間の緊急入院を要する場合があります。当院はクラウド型の電子カルテを採用しており夜間でも情報提供が可能な体制を整えておりスムーズな病診連携を行います。
不整脈
不整脈は大きく分けて脈が遅くなる徐脈と脈が非生理的に速くなる頻脈があります。徐脈の症状は動いた後の息切れがしたり、目の前が突然真っ暗になって気を失うことがあります。飲み薬による治療では改善しないことも多くペースメーカーの植え込みが必要となることもあります。頻脈は突然動悸(ドキドキする感じ)として自覚することが多く、治療は内服薬かカテーテルアブレーション(不整脈の原因となっている心筋の一部を焼灼する治療)を行います。
心房細動は脈が速くなったり遅くなったり脈拍がバラバラになる不整脈です。これは心房という心臓の部屋が震えており、心房内の血流がよどむため心臓の中に血の塊を作ってそれが原因で脳梗塞を発症することがあります。治療は血の塊を作らないように血をサラサラにする薬を内服するのに加え、不整脈をコントロールする薬物やカテーテルアブレーションによる治療を行います。不整脈には多くの種類があり、放置してよいものから、無症状であったとしても命に関わるような危険なものまで様々です。早期に発見することが重要で動悸や脈の不整があれば早めに相談してください。
閉塞性動脈硬化症
閉塞性動脈硬化症とは手足の動脈が動脈硬化の影響で狭くなり引き起こす病気です。典型的な症状は歩くと狭い血管がある方の足にだるさや痛みを自覚します。原因は糖尿病、喫煙、脂質異常症などです。病状が進行すると壊死してしまうこともありますので注意が必要です。
心臓リハビリテーション(現在準備中です)
当院の特徴は心臓リハビリテーション施設を完備していることです。心臓リハビリテーションは心筋梗塞後、心臓手術後、心不全患者などに対し運動療法を行うことで生命予後の改善、心不全による再入院の減少、狭心症症状の軽減等などの効果が期待される治療です。
心臓リハビリテーションの流れは、現在の状態を心エコーやホルター心電図で評価させていただきます。その後、その方に適切な運動強度を評価するために運動負荷試験を行い自覚症状、血圧、脈拍の変化を評価し安全な運動強度を設定します。その方にあった有酸素運動や軽い筋肉トレーニングを医療スタッフの管理のもと安全に行っていただきます。
基幹病院で心臓手術やカテーテル治療を受けられた後も外来で心臓リハビリテーションを継続することが重要ですが、通院が困難などの理由から途中で中断されるケースも多く見受けられます。かかりつけクリニックで心臓リハビリテーションができることで患者さんの利便性と安心感を提供できればと考えています。